トレンドおっちゃん

“トレンドおっちゃん”を自称する現役外務員による、日々の相場観測と 現状の認識を書き綴っています

枕元の本

翼はいつまでも

 川上健一「翼はいつまでも」は5,6年前に「本の雑誌が選ぶ年間ベスト」のベスト1に選ばれた小説だということは記憶していたのだが、昨日古本屋で見つけたので買ってきて読んだ。
 舞台は1960年代の青森県十和田市、主人公は野球部補欠の中学生。中学2年秋から3年夏までの物語。主人公を中心にその友情、初恋、別れいや旅立ちと言うべきか、それらが美しい自然を背景に濃密に描かれている。とりわけ3年夏休みの十和田湖畔でのドラマ、初恋相手多恵の旅立ちのシーン、幾度も目頭を熱くした。
 またこの小説の会話にたびたびでてくる「はんかくさーい」という言葉、十和田にほど近いところの出身である僕もほとんど忘れ去っていた。そうだった、あの頃女子生徒はよく「はんかくさーい」といっていたものだった。僕にとっては、自らの中学時代ともオーバーラップしノスタルジックな物語としても読めたのだった。
 
 それにしても驚いたのは、今朝5時にトイレに起きてきた中学生のわが息子だったろう。寝ぼけ眼の息子が目にしたのは、食卓のいすに胡坐をかき、納豆かけごはんを食べつつ、この小説の最終あたりを読んでいてハラハラと涙している父親の姿だった。

面白南極料理人 笑う食卓

 会社帰りに立ち寄った書店で「面白南極料理人 笑う食卓」が平積みになっているのを見つけミズテンで買ってすぐさま読んだ。著者、西村淳さんの前作「面白南極料理人」は以前に読んでいた。この人は現役の海上保安官で、若い海猿たちに囲まれて今も巡視船に乗務しているらしいのだが、過去に2度、南極観測隊に技師・調理担当として参加している。その体験を綴ったのが前作、そして料理にまつわる話を前作に大幅に補足し掘り下げたのが今回の作品というわけだ。
 南極観測隊というと有名なのはなんといっても昭和基地ということになるが、実は日本が維持管理している拠点がそのほかにいくつかあって、この著者が38次隊で越冬したしたドーム基地は、設備の整った昭和基地から内陸側にはなれること1,000km
標高3,800m、平均気温−57℃、最低気温−80℃、ウィルスさえその生存が許されない極寒の地であるという。飲料水や生活用水は絶えず氷を溶かして作り続けなくてはならないし、火力も十分ではない、標高のため水の沸点は85℃といった所での「調理担当」というものを想像してもらいたい。
 その上、9人の男が共同生活するのだから当然そこには人間関係のきしみというものも生じてくる。著者はそれをたくみにユーモアで包み込んで語っている。著者自身、時たま頭にに血が上るとまさにストレートで「きおつけーーー!!姿勢を正して注目する!」と相手に号令というか金縛りをかけ説教をはじめるのだ。
 さまざまな障害にぶつかった時のこの著者の、根っからの楽天家ぶりと、サバイバル的な発想、それにパワフルな行動力が前作にまして痛快だった。
 料理のレシピについては、この著書は新作でもあるので前作からひとつパクる。カレーを作るのにガラムマサラがない場合、ハウスジャワカレーに太田胃散を小さじ1杯入れるとそれらしき味になるそうである。
 
 

ミャンマーの柳生一族

 かれこれ1ヶ月以上も前に買って枕元本(注)になっていた高野秀行の新刊「ミャンマーの柳生一族」をようやく読んだ。著者は「ホントかよ」と思われるようなものを探して世界各地に遠征する辺境作家である。今度の旅の様相はこれまでとは違っていて早大探検部出身の先輩作家である船戸与一のミャンマー取材旅にガイドとして同行した顛末記なのだが、あらかじめお膳立てされた快適旅らしいので「らしくないな」と少し用心しながら読み進んだ。
 しかし、そこはやはり高野秀行だった。ミャンマーの「いま」を日本の江戸時代にスルドクあてはめ、その国情、社会構造というものを見事に浮き彫りにしてくれている。アウン・サン将軍=徳川家康、スー・チー=千姫、軍部=柳生一族、軍情報部=裏柳生といった具合だ。
 ミャンマーなどといわれても、この空気頭にはこれまでスー・チー女史を軟禁状態に置いているオドロオドロシイ軍事独裁政権の国ぐらいのイメージしかなかったが、どうやらミャンマーという国とその人々は世界の現状とか趨勢というものとはおよそかけ離れところにある、まさに江戸の鎖国日本であった。久々の高野本であり、目からウロコの本だった。
  
    (注)マクラモトボン 寝る前に読む本で未読のものを含めおよそ10冊前後が枕元に置いてある 

  
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